笠原桃奈さんの話

 好きな女の子がいる。

名前は、笠原桃奈さん。

2003年10月22日生まれ。

2016年7月16日、5期メンバーとしてアンジュルムに加入した女の子。

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スマイレージ/アンジュルム2期メンバー、大好きな田村芽実さんが卒業した春。俄かに彼女の卒業を追う中でアンジュルムというグループへの愛着はしっかり根付いてしまって、なんとなく箱推しになるのかしらんとか考えていた夏。

新メンバーの加入は然もありなん。改名以降の楽曲のパフォーマンスには、どうしても9人体制が必要だった。けれど正直に白状してしまうと、加入当初の笠原桃奈さんに対する印象は、それほど良好とはいえなかった。

田村芽実さんという女の子は……もちろん歴代ハロメン全員が無二の存在であることを前提としても、きわめて稀有な存在だったと今でも思う。後にも先にもあのように特異な才能がハロプロに現れることはないのだろう。今もますます高みへと登ってゆく彼女だけれど(ソロデビューシングルを買ってください!)、アイドル時代も表現者として他とは一線を画す存在だった。その周りから少し浮いたような鋭利さに惚れ込んだ。

いっぽう彼女と入れ替わりにハロプロ研修生から昇格となった笠原桃奈さんは、次々続々加入してきたアンジュルム新メンバーたちの中でも、いわゆる即戦力タイプではなかった。なにしろ当時はたった12歳。……12歳だ!リーダー和田彩花さんとは9歳差。おたく語法を用いるのであれば「生まれたて」というやつだ。自分が何者であるかもまだまるで見当がつかないような。

それに加えて彼女は真面目でおとなしかった(当時は)。お肌が白くてさらさらの黒髪で、ほんわかした美人だけれど、パワフルでにぎやかなアンジュルムのイメージとは離れた人材のように思えた。驚くべき速やかさでグループに馴染んだ4期の上國料萌衣さんの例があったので尚更、すぐにはアンジュルムの中に居場所を見つけられず不安そうに見受けられた。

自分はそんな彼女の魅力に気付かない鈍感なおたくだったし、彼女を加えた新編成アンジュルムのシングルの評判が(それまでの破竹の勢いからすると)あまり芳しくなかったこともあり、もしかしたらアンジュルムという箱への興味を失ってしまうかもしれない、とすら考えた(はずなのだが、自分のツイログを辿ってみても負の感情の痕跡は一切残していなかった。我ながらおたくの鑑である)。

幼く人見知りの彼女に必要だったのは、ただひたすらに時間だけ、結果としてはそれだった。彼女は半年ほどかけてじんわりゆっくりとアンジュルムに馴染んでゆき、馴染むほどに笠原桃奈さんというアイドル自身の輝きも増していった。

おしとやかで大人びた外見に対し、中学生らしくはちゃめちゃで内弁慶な言動のギャップが自分を含めた多くのおたくを夢中にさせた。みんなにかまってほしくて電波な行動をしてみたり強くつっかかってみたり、お姉さんメンバーたちはそれをほほえましく見守りときに一緒になって遊ぶ。彼女の存在はアンジュルムの多幸感の象徴となった。

 

自分が最初に笠原桃奈さんという女の子に強く惹かれたのはきっと、彼女の放つ言葉に心動かされたのがきっかけだったのだろうと、今になって思う。

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笠原桃奈さんは、たくさん話す。ブログはしばしば長文になるし、ラジオ等でのトークもスイッチが入るとものすごい勢いで喋りだす。

きっと、たくさん伝えたいことを持っている子なのだろうなと思う。とても賢くていらっしゃるので、いろんな考えが爆発的に頭のなかを駆け巡って、それを全部伝えたくて、一生懸命に早口で話すのかもしれない。けれど言いたいことを上手に掬い取って言葉にするのはまだ苦手で、おそらく彼女自身もそのことを歯がゆく感じているのだと思う。早く大人になりたいと、よく言っているから。

そんな彼女の使う言葉は、子供らしく心のままにとても素直で、なおかつ物事をよくよく考えている誠実さがある。素直なことも誠実なこともアイドルとしてさほど特別な才能ではないかもしれないが、彼女は一見相反するその両方の性質を持ち合わせていて、だからこそ彼女の脳内と彼女の言葉とがきっちり一致して表出されたとき、ひときわ生命力を湛えてこちらを貫いてくる。

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初めての武道館公演で、笠原桃奈さんは言った。わたしはその公演に入っていなかったので、彼女のツイートやブログ、おたくの現場レポなどでそれを知った。

ほんとうに一生忘れないでいてくれるのだろう、と思った。

現実はわからない。それはアイドルの常套句かもしれないし、たとえ本心であったとしても、記憶を一生とどめておけるなんて保証はできないし、万が一達成できたときても、その記憶を証明することなんてできない。けれどいまこの瞬間、笠原桃奈さんが「一生忘れない」と強く強く思っている感情は真実で、その確かさを信じられる、と思ったし、信じたい、と思わせてくれた。そういうちからが彼女の言葉にはあった。

 

笠原桃奈さんのパフォーマンスもまた、彼女の言葉と同じように雄弁だ。雄弁すぎて、ときに彼女の肉体を飛び出していってしまうことがあり、それもまた愛らしい。先述の初武道館においても、ソロパートは少ないながらとびきりの笑顔で楽しさを表現するさまがたまらなく魅力的だったのだけれど、彼女は成長するにつれ自らの肉体のコントロール精度をどんどん高めてきている。

なかでも自分にとって決定的だったのは、2018年春のライブハウスツアーでの『恋ならとっくに始まってる』がハロステで公開されたときだった。

『恋ならとっくに始まってる』は、田村芽実さんの卒業のために書かれた曲で、今のところアンジュルムに改名してからは唯一のつんく曲だ。田村芽実さんを好きだった人間にとってこの曲は特別で、彼女が歌う冒頭の台詞パートに何度も涙した。

もう 止めたりは出来ないよ

どうなるか わかんないけど

うん 受け止める

だって もうとっくに始まってる

田村芽実さんが卒業したあと、この台詞パートは当初和田彩花さんが担当していた。先述の通り、田村芽実さんはある種異様な存在であったため、その才能の凝縮ともいえる台詞を受け継ぐのはとても難しいことだったと思う(実際和田彩花さんはこの台詞に苦労していたようすで、田村芽実さんに直接アドバイスを求めたこともあったらしい)。もともと田村芽実さんのための曲なのだから、彼女がいた頃と同じ濃度で表現することはもう不可能なのだろう、と自分を納得させていた。

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そういうなかで、笠原桃奈さんが台詞パートに挑んだこの動画が公開され、ひとたまりもなく泣いてしまった。「どうなるか わかんないけど」の切実さ、「うん 受け止める」の真剣さ。かつての田村芽実さんの表現とは全然違うけれど、ほとばしるような感情の吐露は、彼女に迫るほどの鮮烈さがあった。田村芽実さんの台詞が、漠然とした不安を振り払って夢に飛び込む女の子の確固たる信念を示していたならば、笠原桃奈さんが表すそれは、不可逆な運命に身を投じてしまった女の子が、畏れすらも受け容れて自らの使命を全うしようとする気高い決意のようだ。

笠原桃奈さんを推すと決めた。箱推しでもなんの問題もないほどアンジュルムという箱が好きなのに、決めてしまった。否応無く、そう決められてしまった。

 

笠原桃奈さんは、美人でかわいいし、歌もダンスもお上手だけれど、客観的にみて他のハロメンと一線を画すというほどの、際立った才能というのは今のところない。でも、彼女の言葉と肉体が彼女の脳内に追いつこうともがくこの日々を、逆に彼女の年相応な内面があまりにも大人びた容姿に追いつこうと背伸びするこの日々を、大切に愛おしく見つめていられる喜びといったら!14歳は、パフォーマンスのほかにもメイクのことやコンプレックスのこと、迷いや戸惑いがあったかもしれないけれども、でもきっとおたくが心配するようなことじゃない。アンジュルムには彼女を心から愛し守ってくれるすてきなお姉さんたちがたくさんいるのだから。

 

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『46億年LOVE』の冒頭で、笠原桃奈さんはくるくると回る。なんの脈絡も、なんの法則もないけれど、ただくるくると回る。きっと回らずにはいられないのだ。これからやってくる歴史的瞬間の予兆として、アンジュルムの新しい時代の幕開けとして、このぱんぱんに膨らんだ期待をそのまま肉体に乗せたら、笠原桃奈さんも、地球回る宇宙もDance Danceってわけだ。

そしてソロパート「伝えられたら…」。伝えたいけれど伝えられないことへのもどかしさを笠原桃奈さんが表現するだなんて!彼女がもがいて追いつこうと努力してきたことそのものが、このパートをひときわエモーショナルにしている。逆説的に彼女の思考と表現が一致した瞬間のひとつとなったこのパートを聴くと、アイドルのファンとしてこれ以上ないほどの幸せがどっとあふれる。

 

笠原桃奈さん、宇宙一かわいい笠原桃奈さん、15歳のお誕生日おめでとうございます。

15歳のももなには、とてもつらい別れが待ち受けています。きっとそれをきっかけに、皆に守られるだけじゃなくて誰かを守る人になってゆくのでしょう。けれどおたくとしては、まだまだ子供のももなを見ていたい気持ちもあって。いそいで、ゆっくり、大人になってくださいね。

 

最後に。おたくのしみったれた重い恋文より、和田彩花さんの書いた短くも美しい文章を読むほうが、よっぽど笠原桃奈さんのまぶしさをおわかりになると思うので。

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