祈り

 

今年も宇宙でいちばん好きな人のお誕生日がやってきた。

笠原桃奈さんがアンジュルムで迎える、最後のお誕生日。

笠原桃奈さんが17歳になるタイミングで開催されていたハロコンで、笠原桃奈さんが披露していたのは『おとなの掟』でした。

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笠原桃奈さんみずから歌いたいと訴え、ボイトレの先生をして「練習する必要ない」と言わしめたこの挑戦、笠原桃奈さんは他でもなく笠原桃奈さん自身の意志と力によって次のステージへ、高みへと上りました。

 

そう人生は長い 世界は広い

自由を手にした僕らはグレー

背伸びしすぎだなんて評価を一切受け付けないほどに、大人っぽいという薄っぺらな言葉では足りないほどに、隅々まで感情をほとばしらせ、しまいにはこの詞で一気にその物語を自分のものとして手繰り寄せる。そういうことができてしまう人だとみんな知っていて、でも誰も知らなかったのだと、まざまざと思い知らされた驚異的なパフォーマンスでした。

 

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抱きしめられなくても、手を繋げなくても、必死で寄り添いあって、優しく笑いあって、ひたむきに今という奇跡を祝福し続けた8人の時代。

船木結さんという存在の特別さ。アイドルの才能に満ちているといえば簡単なのかもしれないけれど、それだけでは説明がつかないほど、色々なことを背負ってしまった人。

笠原桃奈さんと船木結さんは似たもの同士で、ゆえにその差異が浮き彫りになって、だからこそ余計にふたりの関係はもどかしく愛おしく楽しく切ないものでした。子どもから大人に、後輩から先輩になる過程をいっしょに歩んだふたり。大人になったふたりはもう宇宙の真理や大人のずるさについて話したりすることはないのかもしれないけれど、その記憶は世界との対話を諦めないふたりの信念をきっと支え続けるにちがいありません。

船木結さんの卒業コンサートで、笠原桃奈さんはついに涙を零しませんでした。心の芯のようなもののひんやりとした硬さが肌に滲み出ていて、その肌のうえにはうっすら炎がゆらめくようで、冷たいのか熱いのか、その両方なのか。はじめて笠原桃奈さんのことを怖い、と思いました。怖くて美しくて、そしてたまらなく魅力的でした。

 

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ほんの1年前ちょっと前、勝田里奈さんの卒業コンサートで「大人っぽくなります!」と宣言していた笠原桃奈さんは、あっというまにその段階を飛び越えて、自意識についての新たな戦いに臨みました。それはつまり、身の丈以上に大人っぽく/子供っぽく見られることを拒否し、自己像を自分の手中に取り戻す挑戦でした。

他者から見た自分のイメージを自意識と一致させることはあまりにも困難で、ほとんどの人は大人になるにつれてそれを諦めてしまうか、とりわけアイドルであればそのイメージを利用したりともすれば内面化してしまう人も多いのではないかと想像しますが、笠原桃奈さんはその違和に見て見ぬふりをしなかった、できなかったのかもしれません。それはまるで「赤リップ事件」についてもう一度、自分自身の文脈で思考し直そうとしているようにも見えました。

 

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ともすれば無謀で危なっかしいその挑戦を経て、結局必然的に、笠原桃奈さんはかつての和田彩花さんと同じ結論に至りました。ずっと向き合い続けてきた自己肯定という巨大なテーマに対していわば開き直りに近いその態度は、世界への「祈り」としての開き直りでした。今でもコンプレックスに悩み苦しみながらそれでも、自分に注がれてきた愛を自覚し、祈る者すなわち表現者として舞台に立つ決意。笠原桃奈さんはノブレス・オブリージュの担い手として、アンジュルムの愛を世界に分配すべく名乗りを上げたのです。

 

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93人を加えての10人体制はカラッと明るく、さわやかな希望に溢れていました。201811月に7期が加入してから絶え間なくメンバーが入れ替わり、久々に卒業予定者がいない体制。『はっきりしようぜ』の間奏で竹内朱莉さんの左右を固める佐々木莉佳子さんと笠原桃奈さんのあまりの迫力にくらくらして。あの十人十色時代に匹敵するような新たなアンジュルムの時代がやってくる、そういう確信に満ち溢れたシングルでした。

大人っぽい衣装で大人っぽい表現を求められた『愛されルートA or B?』の笠原桃奈さんは(どういう考えを抱いていたにせよ)完璧に演じきってみせました。その表面上の揺らぎなさ、迷いのなさがやはりすこし恐ろしくて、わたしは少し尻込みしてしまって、でもこのときはまるで予感めいたものすらほんの少しも感じていなかったのです。

 

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笠原桃奈さんの卒業は、もっとずっと遠い、いつかの未来の話だと思っていました。笠原桃奈さんはわたしが想像していたよりもずっと聡明で、ずっと大人でした。アンジュルムの精神を体現するかのような笠原桃奈さんの選択は、どこまでも正しく明快で、なんの疑問を挟む余地もありませんでした。

けれど好きな人の人生を勝手に決めつけて悦に入っていた業の深いオタクは、さあ行ってらっしゃいと朗らかに背中を押すことすらままならないのです。いつまでも同じところにしがみついているみっともないオタクのことなどいっそ踏み台にして捨てて忘れて、夢に向かって高く跳んでくれたら、と思いました。

「これは私のエゴかもしれないけど、もし時間がかかったとしても、いつか解ってくださったら嬉しいです。」

それなのに笠原桃奈さんときたら、こちらをそっと振り向いて襟を正してくれるのです。笠原桃奈さんを好きでいる、ただそれだけのオタクの誇りを失わせないように微笑みかけてくれるのです。

 

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もう 止めたりは出来ないよ

どうなるか わかんないけど

うん 受け止める

だって もうとっくに始まってる

卒業発表後はじめての現場、ハロコンRuby公演開始1秒で、わたしの思考は砕け散りました。2018年の春、わたしがまさに笠原桃奈さんに決定的に恋をしていることに気づいてしまったあのパート、『恋ならとっくに始まってる』の冒頭の台詞を、まさかここで再び聴くことになるとは思ってもみなかったからです。14歳のときの、これから始まる得体の知れないなにかへ戸惑いつつ思い切り飛び込んでいくような勇敢さとはまるで別人の、これから何が起こるのかはっきりと見据え、すべての困難を覚悟したうえで一歩を踏み出すような勇敢さ。

 

"それでは好かれないよ私は好きよ

真っ赤で派手な爪

慣れてないだけ じきに首ったけ

大人になることは 汚れることじゃないわ

ピンと来ないならちゃんと私を見てなさい

そしてソロフェス2笠原桃奈さんが選んだ『Va-Va-Voom』は、笠原桃奈さんのために作られた曲ではないのがいっそ不思議なほどに、笠原桃奈さんの曲でした。大人っぽくも子どもっぽくもなく、その間で揺らぐ等身大の女の子が、大人になることへの覚悟のしるしを自分自身に刻みつけるかのような、笠原桃奈さんらしさに溢れた鮮やかなパフォーマンスでした。

ハロー!プロジェクトのアイドルの、他人のために作られた歌を自分のものとして歌うときのみごとさにいつも心酔しています。これまで書いてきたとおり笠原桃奈さんはとりわけその資質に優れているアイドルですが、自分を楽曲の物語に溶け込ませるというよりは、楽曲を自分の物語に引き寄せる引力が強い人なのだと思うのです。その才能は加入当初から変わらないまま、その上に覚悟という名の鎧を纏った笠原桃奈さんは、もう絶対絶対負けない。無敵です。もう止めたりできない。できるはずがない。

だからわたしもオタクとしての誇りを持って、覚悟を決めます。いつまでも笠原桃奈さんの覚悟を直視せずに怖がってばかりいるのはやめます。笠原桃奈さんが見てなさいと言うなら、見ています。笠原桃奈さんがアンジュルムという大河から退場するその瞬間まで見ています。笠原桃奈さんへ注がれる祝福のひとかけらになって、笠原桃奈さんが世界へ捧げる愛と祈りの燃料になります。それが笠原桃奈さんの物語に報いるためにわたしができる、たったひとつのことです。

 

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笠原桃奈さん、18歳のお誕生日おめでとうございます。

あなたの貴い成長を見つめることを許してくれてありがとう。

だいすき。

愛しています。

今日もあなたのことが宇宙でいちばんすきです。